手すりを設置する場所は廊下や階段だけではありません。高齢者の方にとっては「浴室」や「トイレ」に設置することの方が有り難味が大きいのではないでしょうか。
というのも「浴室」にしろ「トイレ」にしろ、いったん体を低い位置に移動させるからです。つまり「立ち上がり」、より具体的に言えば「重心の低い位置にあった身体を、地球の重力に逆らって高い位置へと移動させる行為」をする場所だからです。皆さんも床の上にあるものと、机の上にあるもの、どちらを持ち上げるときが体への負担が少ないか想像していただければすぐにお分かりいただける筈です。
では今日はトイレに手すりを設置する場合のことを考えてみましょう。最近のトイレにはL字型の手すりが設置されています。横の手すりが立ち上がりを補助する、つまり体(の重心)を支えるための役割を果たしているのは容易に想像できますが、では『縦の部分の役割は?』と尋ねられると悩んでしまいますね。
これはトイレに入ったときのことを想像して下さい。洋式の場合、体の向きを入れ替える必要がありますが、このときに「何かつかまるもの」があれば、それがしやすいですね。トイレでは実際の排泄行為の前後に、ドアの開閉、衣類の着脱、トイレットペーパーの切断、水を流す等、結構手間のかかることをやっています。こういうときに立位を保持できず、バランスを崩しやすかったらどうなるか、そう考えると縦型手すりの有り難味がよく分かります。
また手すりの設置場所にも意外と注意が必要。実際にやってみるとわかりますが、洋式で便座から立ち上がるときに、人間は頭を下げて前屈みになり、さらに両足を後方に引こうとします。この時L字型手すりの横の手すりにつかまっていた腕がそのまま前方に平行移動するのですが、その分を考慮して横の長さを決めておかないといけません。また高さについても、廊下や階段の場合とは異なり、「便座に腰掛けていて、前屈みになった状態での頭部横」を目安とする必要があります。体型や身体の状態には個人差がありますので、それを考慮した微調整もお忘れなく。